はじめに
日本では2020年1月16日に初めて感染者が確認されて以降、新規感染者数などの情報はメディアなどを通じて毎日何度も伝えられている。しかしながら、自分が生活している地域やこれから移動する地域にどれくらいの感染リスクがあるのかについての指標は公開されているものは少なく日常生活をするにあたり不安である。そこで、感染拡大から1年間で得られたCOVID-19感染症の知見や公開されている情報から相対的な感染リスクを数値化する事を試みた(2021年4月12日初版)。その後日本においてもワクチン接種が進んだことやウィルスの変異により感染しやすさである基本再生産数に変化したことから感染リスク数値の算出方法を改訂することとした。
COVID-19の特徴
- 感染経路と隔離期間
COVID-19の感染経路はアメリカ疾病予防管理センタ(CDC)によると
close contact > airborne transmission > contact with contaminated surfaces の順に大きいとしている。また、隔離が必要な期間については、症状のある人は症状が出てから少なくとも10日間経過し、かつ解熱剤を使用せず発熱がなくなってから24Hr以上経過していること、かつその他症状が改善するまでとしている。なお、臭覚味覚の異常は長期におよぶ事があるが感染には影響しないとして除くとしている。また、無症状の陽性者は症状がなければ陽性確認後10日間の隔離が必要としている。
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/prevent-getting-sick/how-covid-spreads.html
また、日本国内においては感染経路について花王のホームページにわかりやすくまとめられている。これによると、飛沫(5μm以上)と飛沫核(5μm以下)による飛沫感染経路と手指へのウィルスの付着による接触感染経路があり、飛沫の大きさや飛距離は温度、湿度、空気の流れにより変化するとされている。
https://www.kao.com/jp/hygiene-science/expert/inactivation-methods-new-coronavirus/transmission-route/ - ウィルス(SARS- CoV-2)の生存性
感染経路において、ウィルス自体の生存性は感染に大きな影響を与える。例えば手指についたウィルスが感染力を維持しているかに影響するためである。日本防菌防黴学会のホームページに掲載されている麻布大学 野田 衛氏の「新型コロナウイルスの基礎知識、集団予防および生存性・不活化」の報告
https://www.saaaj.jp/covid/pdf/covid02.pdf にまとめられている。それによると、新型コロナウィルスの生存性に及ぼす温度の影響が示されており、温度が低い程ウィルスの生存性が長くなる事がわかっている。
なお、ウィルスの生存性と湿度の関係については他のコロナウィルスでの報告から湿度が高いほど生存性が短くなる傾向があるがさらなる検証が必要とのことである。 - 飛沫の拡散性
感染経路において、飛沫の飛ぶ距離、量などについても同様に重要な因子である。内閣官房によるCOVID-19 AI・シミュレーションプロジェクトの成果報告において、理化学研究所/神戸大学 坪倉 誠氏の「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策 #3」の報告
https://www.r-ccs.riken.jp/fugaku/history/corona/projects/tsubokura/
にまとめられている。それによると湿度が低いほど前方の人に到達する飛沫の量が大きくなる事が報告されている。
感染リスクのモデル化検討
これまでの知見から感染リスクの数値化に向けて感染モデルの仮説を作成した。ここでモデルとしたのは自助努力ではどうにもならない外的因子とした。リスクモデルは基本再生産数×感染者数×温度×湿度×人の移動×抗体非保有者数となる。ここで基本再生産数と抗体非保有者数は当初は一定であると仮定し除外しリスクモデル=感染者数×温度×湿度×人の移動度としていた(数赤枠部)。今回の改訂ではウィルス基本再生産数と抗体非保有者情報まで拡大することを検討した。
感染リスク因子の数値化
- 基本再生産数(R)
国立感染症研究所によるとR0とは, ある感染症に対して全く免疫を持たない集団の中で, 1人の感染者が平均して何名の二次感染者を発生させるかを推定した値であるとしている。そのため感染リスクを数値化するには重要な因子である。この指標を検討した当初はコロナ変異種の影響など不明確なものが多かったため、このモデルでは単一因子として扱い因子から除外していた。日本でもアルファ株、デルタ株などの変異株を経験しデータが整ってきたことから今回追加することとした。新型コロナウィルスの基本再生産数は変異株が出現するたびに変化している。当初CoV-2のR0は2から3であったが、デルタ株では5−9まで大きくなっている。ちなみにデルタ株はアルファ株の2倍と言われているのであるアルファ株は2.5から4.5ということになる。この結果から下表のように係数づけをすることとした。
ウィルス種類 | アルファ株以前 | アルファ株 | デルタ株 | オミクロン株 |
基本再生産数R0 | 2〜3 | 5〜9 | 不明 | |
基再生産数係数 | 1 | 1.5 | 3 | 不明 |
日本国内で報告された変異株の報告状況についてはGISAIDのデータをまとめたサイト、例えばhttps://sarscoverage.org/index.htmlにて確認することができる。このサイトでは月単位での変異株毎の報告数が確認できる。これよりアルファ株、デルタ株の比率を把握することができる。この比率を基本生産数係数に当てはめ指標化した。
日々の基本再生産係数(R)=アルファ株以前比率×1+アルファ株比率×1.5+デルタ株比率×3
なお都道府県別のデータは現在公表されていないので全国一律とした。
- 感染者数データ(I)
国内における新規感染者数はNHKにより都道府県別まとめられたものが日々更新されている。https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/?utm_int=news_contents_news-closeup_002 本モデルではこれを参照する事とする。また、隔離が必要な期間を参考に過去10日間の平均値をウィルス保有者数として数値化する事とした。なお、都道府県別の数値は人口10万人当たりの感染者数に変換し、東京都における2020年6月1日から10月31日までの人口10万人当たりの新規感染者数の平均値が1となるように係数補正を行った。これは日本では2020年前半は検査数自体の変化が大きく比較する事が難しいためである。このようにして求めた指数を東京にあてはめると最大10程度の値を示した。 - 気温データ(T)
温度とウィルス生存性の関係は下図のように温度とウィルス生存度比をまとめた。なお、東京都の2020年の平均気温16.6℃でウィルス生存度比が1となるよう更に係数補正を行っている。都道府県別の気象データは気象庁のホームページで公開されているデータを用いた。
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
- 湿度データ(H)
湿度と飛沫拡散比の関係は下図のようまとめた。東京都の2020年の平均湿度71.5%RH時の飛沫拡散比が1となるように係数補正をおこなった。なお温度データと同様に都道府県別の気象データは気象庁のホームページで公開されているデータを用いた。下図をみてわかるように湿度に対する飛沫拡散比の変化は最小湿度が概ね30%RHから100%RHで推移する事を加味すると0から4の間で推移する。これは湿度による変化が温度と比べて影響度が大きい事を示す。
- 人の動き(M)
人の動きはスマートフォンなどの位置情報を利用した解析が公開されている。本解析ではGoogle社の公開しているコミュニティモビリティレポートを参照した。
https://www.google.com/covid19/mobility/
このレポートは日本では都道府県単位でのカテゴリー毎の日毎のデータが公開されている。本解析では小売店と娯楽施設、乗換駅、職場の数値を平均し基準日が1となるように補正した。なお、基準日は2020 年 1 月 3 日〜2 月 6 日の 5 週間における該当曜日の中央値となっている。なお、都道府県間のデータ補正は行わない事とした。なお、上記により求めた東京都の数値は0.23から1.01の範囲であった。 - ワクチン接種係数(W)の考慮
ワクチンの接種率について東京都の場合は年齢別の接種率が東京都福祉保健局のホームページにて日々公開されている。これより東京都の日々ワクチン2回接種済み者の人口比をデータとして用いることとした。都道府県による差は考慮しないことをした。ワクチン接種により発症者がどれくらい抑えられるかについてさまざまなデータが存在するが、国立感染症研究所が公開している「新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第二報):デルタ株流行期における有効性」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10757-covid19-61.html
を参考とした。これによると2021年8月1日から8月31日までの関東の7医療機関を受診した人のうちワクチン接種有無によるPCR検査陽性数が記載されている。これによるとワクチン2回接種群の罹患率は0.15であった。これよりワクチン係数(W)=1-(ワクチン2回接種率/100)×(1-ワクチン2回接種群の罹患率)とした。
都道府県別感染リスク数値化
都道府県別の感染危険度は各因子を乗じた数字とした。各因子を単純に掛け算する事は少し雑破な印象も受けるが今後実態と合わせて各因子の寄与度の調整を検討する。
感染危険度(ベース)=R×I×T×H×M×100
感染危険度(変異株・ワクチン考慮)=R×I×T×H×M×R×W×100
今回の改訂にあたり感染危険度の比較を実施した。
検証の意味合いで東京、大阪、沖縄、北海道のベースと変異株・ワクチン考慮指標について感染危険度の推移比較を実施した。ベース指標では第5波(8月)のピーク値が第3波、第4波と比較して感覚として低くなっていたが、ワクチン・変異株を考慮した新指標ではこれが実態に近づいている。
特に大阪府と沖縄県の第6波の値が大きくなっている。
まとめ
以上の経緯からワクチン・変異株を考慮した新指標にてCOVID-19感染危険度をマップを改訂することとした。
自分生活している地域の状況および旅行などで移動する際の参考としていただきたい。今後実感と合わない点があれば適宜改訂するとともに改訂履歴を表記することとする。
なお、しばらくは新旧の違いがわかるように併記することとする。