彼女を連れて来る

失踪騒ぎもおさまりしばらくは平凡な日々が続きました。ちなみに前回のような失踪騒ぎは幸にして二度目はありませんでした。そんな騒ぎを忘れかけた頃に今度は少し微笑ましい出来事がありました。

以前も書きましたが、我が家はアパートの2階にあります。南側の窓からは道路を挟んでごろーさんの縄張りと思われる住宅街を一望できます。道路にはセンターラインはありませんが住宅街の抜け道みたいな感じで使われており車もたくさん通ります。ごろーさんが渡る時に不意に飛び出したりしないかちょっと心配しています。

 住宅街を窓から見ていると、時折周囲をパトロール中の茶トラ猫(ごろーさん)を見かける事があります。例えば大きな切り株みたいな木材で爪を研いでいる姿などをみかけたりしました。当時、妻はピアノを子供達に教えていましたが、教えていた子供が窓の外をみて、「あ〜でっかい猫がいる」と言っていたそうです。そのでっかい猫はごろーさんの事です。「今度見つけたら教えてね」と言われたそうですが、時には隣の部屋で寝ている事もあったのは内緒です。

ある時、何気なく外を眺めているとごろーさんがとぼとぼと歩いていました。そして、その後ろを少し離れて三毛猫がついて歩いている姿を見かけました。三毛猫には女の子しかいないそうなので、もしかしたらごろーさんの彼女かなと思いました。ごろーさんはこの娘を追いかけて家出したのかなと妻とは話していました。

 ある夏の夜のこと、いつものようにごろーさんが我が家にやってきたドンという音がしました。でもちょっといつもと違う感じがして外を見てみると、ベランダの柵の上に三毛猫(ミケ)ちゃんがいました。どうやらごろーさんの後をついて我が家にまでやってきてしまったようでした。

 窓をあけて、ミケちゃんにも「おいでよ」と招いたのですが、ミケちゃんは警戒しているようで一定の距離を保ったままでした。綺麗な身なりをしていたので野良猫でなくてどこかの飼い猫なのかもしれません。一定の距離からちょっと近づいてみたら、ミケちゃんはごろーさんとは違いとても身軽で俊敏にベランダの上を素早く移動していきます。そして怖かったのか一気に地面に向かって駆け下りてしまいました。本当にすばしこくて追いかける事はできませんでした。ごろーさんはその間何もせず見ていて、「ミケちゃんを呼び止めてあげればよいのに〜」とちょっとさえない奴と思いました。それとも、自分のご飯をとられちゃうのが嫌だったのかな。その辺は猫の習性をもう少し勉強する必要あるのかもしれません。

その日以降もごろーさんとミケちゃんを外で見かける事はありましたが、家まで連れて来る事はありませんでした。仲が良いのだから連れてくればよいのにと思っておりました。