デルタの次は?

2021年8月15日現在、日本ではデルタ株が猛威を奮っています。2020年1月に日本で初めて新型コロナウィルスが観測されて以降流行と収束を繰り返しています。この流行と収束にはウィルスの変異とも大きく関係しております。ワクチンの接種も進んでいますが、今後の動向を占うべくウィルスの変異について考えてみます。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と変異

新型コロナウィルスの変異については専門知識が必要なので、文献を検索してみたところ、素人にもわかりやすくまとめられた論文が久留米市のホームページにリンクされていましたので引用して紹介します。
http://www.fb-kurume.com/fudobankukurume/toppupeji_files/新型コロナウイルス変異株とワクチン.pdf
これを要約すると、新型コロナウィルスはRNAウィルスなのでDNAウィルスと比べ変異は大きいが新型コロナウィルスはRNAウィルスの中では例外的に変異が小さいとのことで、結果的に1ヶ月に2箇所程度の変異を起こしているとのことです。「以下原文引用」

「ウイルスにはRNAウイルスとDNAウイルスかあり、コロナウイルスは宿主細胞の脂質二重膜=エンベロープ(アルコールや洗剤に弱い)を外部にまとった約3万塩基からなるプラス鎖の1本鎖RNAで、RNAウイルスとしては最大級である。長鎖の2本鎖DNAは複製時以外にも、紫外線・放射線や活性酸素などの高エネルギー傷害による切断・脱落や塩基の変更(変異)が致命的にならないように、相補性を活かして校正・修復する機能が備えられてきたので、細胞分裂時のコピーミスを100万回に1回程度に低減されている。それでもヒトのゲノムDNAは30億塩基対からなるため、遺伝子病やガン化の原因になる。一方RNAは殆ど1本鎖状態で、複製に伴うエラー補正機能がないため、変異率はDNAより最大 1,000倍程度高い。ウイルスの複製には多くの細胞の酵素や蛋白質合成系を借用するが、ウイルスRNA複製に必須なRNA依存RNA合成酵素のように、細胞が持たない酵素はウイルスゲノムにコードされている。一般的にRNAウイルスのRNA依存RNA合成酵素は忠実度が低いうえ、エラーを除く校正機能が無いため、1回の複製サイクルでゲノム当たり1~2塩基の変異を生ずるとされ、DNAウイルスの1,000倍以上突然変異の多いウイルスグループである。ただ例外的に、このコロナウイルスは一部校正機能をもつ酵素を作るため、最大級のRNAウイルス・ゲノムサイズを持つように進化したかも知れない。それでも1ヶ月に約2ヵ所の塩基変異を起こしており、DNAに比べれば、遙かに変異が多い。」

世界でのSARS-CoV-2の遺伝子状況

SARS-CoV-2の変異遺伝子情報は世界中の研究機関からGISAID Initiative (https://www.gisaid.org)などのデータバンクに登録され、データは様々な形式で公開され利用されています。
このデータをもとに分子疫学解析が行われている。例えばNEXTstrain (https://nextstrain.org/sars-cov-2/)や CoVerage (https://sarscoverage.org/index.html)などがあります。


NEXTstrainにて世界で確認されたSARS-CoV-2の変異数をみてみると1年間に25.197件の変異が発生している事がわかる。およそ2週間に1回のペースで新たな変異が起きている事が確認できる。

世界での変異発生状況、NEXTstrainより引用

日本でのSARS-CoV-2の遺伝子状況

日本での変異状況をhttps://sarscoverage.org/results/JP.html でみてみると月毎の遺伝子状況が比率としてわかる。下図に主要な変異株の月別比率変化を示す。なお、ここでの変異株区分はPANGO系統(pango lingage)での名称となる。
2020年1月に武漢よりきたB株が欧州を経由して変異したB.1.1株に置き換わり日本での第1波が収束している。その後2020年7月頃より日本で変異したと思われるB.1.1.284株に置き換わり夏場にかけて主に関東地方中心に第2波の流行が起こった。その後、徐々に同じく日本で変異したと思われるB.1.1.214株に置き換わり2020年年末からの第3波が起きている。その後3月頃よりR.1変異株を経て第4波のB.1.1.7(アルファ株)そして現在主流の第5波B.1.6172.2(デルタ株)となっている。これをみると変異株の移り変わり毎に感染の波が起きていることがわかる。

日本での変異株状況 CoVerageデータをもとに作成

デルタの次にくるのは?

過去の経緯をみると、現在猛威を奮っているデルタ株も数ヶ月すると別な変異株に置き換わると推測されます。その兆候を探してみます。
東京都健康安全研究センターでは世界の新型コロナ変異株発生状況(8月8日版)として公開しています。http://www.tokyo-eiken.go.jp/lb_virus/worldmutation/
その中に世界で新型コロナ感染者の多い国について流行株の状況をまとめています。これをもとにCoVerage (https://sarscoverage.org/index.html)を使って深堀りをしてみました。

主要国の状況 東京都健康安全研究センター資料より引用

世界の主要国でB.1.6172.2(デルタ株)に置き換わりそうな変異株を調べてみると候補になりそうなものはAY3株であることがわかりました。
下図はアメリカの状況ですが、B.1.6172.2(デルタ株)の増加とともにAY3株も増加しています。また、ケニアの状況も以下に示しますがこちらはB.1.6172.2(デルタ株)を押し除けてAY3株が増加していることがわかります。

アメリカでの変異株状況
ケニアでの変異株状況


それではAY3変異株とはどういうものなのでしょうか?
AY3はB.1.6172.2(デルタ株)から変異したものの一つでORF1a部位がI3731Vに変異したものとのことです。これについてはまだ不明な点が多いとのことです。デルタ株より弱毒化していることを祈るばかりです。https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10501-covid19-48.html

追記:AY系統はWHOの定義により全てデルタ株(B.1.617.2)に集約される事になったとのことです。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/lb_virus/worldmutation/

                                            以上